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攻略アドバイス&メディカル情報

なでしこジャパンチームドクター
原 邦夫先生からのアドバイス

ランナーのみなさまへ、専門家からアドバイスをお送りします。
アドバイスを参考にしながら、しっかりと準備をして当日を迎えましょう。


スポーツドクター 原 邦夫

原 邦夫(はら くにお)さん
スポーツドクター

マラソン出走予定

1955年京都市生まれ。1981年京都府立医科大学を卒業。京都学際研究所附属病院などで勤務後、2003年に社会保険京都病院整形外科部長、2008年から同病院スポーツ整形外科センター長、京都府立医科大学特任教授となり、現在に至る。日本整形外科専門医、日本オリンピック委員会強化スタッフ。フィギュアスケート高橋大輔選手、女子マラソン野口みずき選手、京都サンガの選手など様々な種目で活躍するアスリートの治療を行うとともに、1992年からサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のチームドクターとして、2011年ドイツワールドカップ優勝、2012年ロンドンオリンピック銀メダル獲得など、選手を陰で支えている。

京都マラソン2015のコースの特徴

今回、京都マラソンは京都陸上競技協会のご担当者をはじめ京都マラソン実行委員会のみなさまのご努力で、さらに魅力あるコースに生まれ変わりました。一番の変更は従来のコースでひとつの名物でもありましたが、幅広い層が参加しやすい大会にするため、レース中盤の狐坂から国際会館への往復が削除されたことです。この区間は大文字の送り火の「妙」と「法」が点火される山の間を登るようなコース設定でかなりの難所でした。

また、中盤では植物園の園内や終盤に京都市内の中心にある京都御苑(御所)周辺を走るコース設定に変更されました。変更後はいずれも平坦な走りやすいコースで京都御苑周囲の京都らしい風景や、くすのき並木の植物園の中を走るという、都市型マラソンでは初めての設定になると思います。

しかし、京都マラソンの前半では5km過ぎからアップダウンが続き、17km付近までに70m上る設定になっています。そのうえこのコースでは徐々に上っていくのではなく、高低差が20~30mほどのアップダウンが5回ほど繰り返されます。ほぼ平坦なコースの神戸マラソンでの難関が35kmからの2kmで高低差が25mの上りです。これに比較すると京都マラソンでのアップダウンの繰り返しはかなり厳しく、前半で足に蓄積される疲労はかなりあるものと思います。

中盤はやや下り傾向になりますが、36km付近からは上りになり、コース終盤38km付近の京都大学前の百万遍交差点から白川通まで約1kmの区間は20~30mほど上るコース最後の難所です。これは神戸マラソンや福知山マラソンでの難関といわれている終盤の上り坂にも匹敵する高低差ですので、気を引き締めて乗り切る精神力が必要になると思います。

自分に合ったトレーニング

私たちが病院でお話ししている内容はスポーツによって引き起こされたケガの部分に対する治療方法ですので、ランニング方法やトレーニング内容についてではありません。トレーニング内容などはランニング愛好家向けの専門誌がいくつか発売されています。この中にはトレーニング方法の紹介も多く、フルマラソン1か月前からの過ごし方なども紹介されているものもあります。

しかし、いくら新しいトレーニング方法が紹介されていてもやはり練習には時間がかかります。急にマラソンが早くなるような魔法のトレーニング方法はありません。一流選手が早くなるためのフォームやトレーニング内容が必ずしもすべての方に当てはまるとは限らないのが現実です。

やはり自分に合った練習方法を試行錯誤しながら見つけることや、目標タイムを短縮する過程がランニングを継続させる意欲になると思います。誰もがこれをすれば必ず早くなる方法などないわけで、自分に合った練習を見つけ出すことが楽しいのだと思います。

上り坂の注意

坂道の走り方は箱根駅伝の山上りの選手のように鍛え抜いた方でも大変です。坂を駆け上がるには平地を前に進む力に加えて身体を重力に逆らって持ち上げる必要があります。走るスピードは歩幅(ストライド)と歩数(ピッチ)の掛け算で決まります。普段の生活で階段の上りを考えますと一段抜かしで上る場合と一段ずつ上る場合では一段抜かしのほうが早いですが脚の疲れを感じると思います。坂を駆け上がる時も同じです。ストライドを平地を走っている時と同じにしようとすれば筋力を使わないと身体全体を持ち上げることができません。この時に筋力は平地の走行よりも余分に使われるため思っているより疲労が生じてその結果、乳酸が溜まってきます。

階段を上ったり坂道を駆け上がる時に身体を持ち上げるために主に使われる部分は大腿四頭筋という太ももの前の筋肉で膝の関節を伸ばす作用も持っています。ストライドを伸ばそうと思えば膝を伸ばす役割の大腿四頭筋の疲労が上り坂で重なってくると、平坦な路面になってもストライドが伸びなくなってスピードの維持ができなくなってしまいます。

京都マラソンのようにアップ・ダウンが続いているコースでは特に前半の上り下りで大腿四頭筋にダメージを負ってしまった場合には後半でのストライドの維持は難しく、そのためにスピードの維持が困難になってしまいます。

下り坂の注意

下り坂は反対に平地と同じように足を振り出すと、振り出した足の着地点は前方へ傾斜していますから、同じ平面よりも前方へ移動してこの結果としてストライドは伸びることになります。またこの時には着地面が低くなるため脚にかかる衝撃は強くなります。

下り坂や階段での低い場所への衝撃は関節に強くかかります。上り坂より力を入れて地面をけらなくても前方への移動距離が延びるためにストライドが伸びてスピードは出るはずですが、そのための衝撃は脚の関節に強く出ます。特に膝関節のクッションの役目をしている関節軟骨には衝撃がかかります。この衝撃を和らげる働きをするために筋肉がショックアブソーバーのような役割をしています。

この役割を担っている筋肉がまたも大腿四頭筋で体重を支える大切な役割を担っています。上り坂で頑張りすぎて大腿四頭筋に負担をかけると、その付けが下り坂にでてしまいます。スピードは出せても着地の衝撃を和らげることができないまま関節への負担となってじわじわと痛みなどのトラブルを引き起こしてきます。

以上のことから考えますと、上り坂では少し歩幅(ストライド)は狭くして、その分歩数(ピッチ)でかせぐ意識を持っていただくほうが大腿四頭筋へのダメージは残らないかと思います。そして下り坂では上りの遅れを取り戻そうといつもより歩幅(ストライド)を伸ばしてスピードを上げるのは脚(特に膝関節の軟骨)への衝撃が強くなってしまうので、いつも平地を練習している時と同じくらいの感じで走ってください。それでもストライドは広くなりスピードはその分出ているはずです。疲労が溜まると下り坂でも太ももの前の筋肉、大腿四頭筋に着地するたびに痛みを自覚することもあります。このような痛みが出てきた人は要注意です。

京都マラソンでのペース配分

このようにアップダウンの続くコースはなかなか脚にダメージを残さないように走るのは難しいです。

関西圏の都市型マラソンの大阪、神戸のような比較的平たんなコースではみなさん5kmごとのラップタイムを一定に保ってイーブンペースで走り切ろうと練習されていると思いますが、アップダウンの続く京都マラソンでは前半にイーブンペースが守れない可能性が高いと思います。前半の上りではペースが落ちて周囲のランナーに抜かれても決して焦らず筋肉に負担をかけない走りで、疲労蓄積を最小限に抑えてください。途中で予定タイムを取り返すために無理なペースアップは終盤に待ち構える最後の上りで大失速につながりますので、他のコースのタイムと比較することなくこのコースでのベストタイムを目標に頑張っていただければと思っています。

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